第1章: 集合とは何か

数学の基礎を形作る概念

入門(高校数学レベル)

このページの目標

集合の直観的な意味を理解し、要素帰属関係の記法に慣れる。外延的記法と内包的記法を使い分けられるようになる。

1. 集合の概念

集合とは、ある条件を満たすものの「集まり」である。この概念は19世紀後半にゲオルク・カントールによって体系化され、現代数学の基礎となっている。

定義:集合(直観的定義)

集合(set)とは、明確に定まった対象の集まりである。集合を構成する個々の対象を、その集合の要素(element)またはという。

「明確に定まった」という条件が重要である。ある対象がその集合に属するかどうかが、定義のうえであいまいさなく定まっていなければならない。

条件が明確な場合と曖昧な場合の対比 条件が明確 → 要素が定まる 条件:「10 以下の素数」 2 3 5 7 属するかどうかが一つに決まる 条件が曖昧 → 要素が定まらない 条件:「大きい数」 100 は属する? 1000 は属する? どこで線を引く? 「大きい」の基準が定まっていない
図1. 「明確に定まった」の意味。左は条件から要素が一意に決まる。右は「大きい」の基準そのものが定まっておらず、どの数が属するかが決まらない。

注意:明確な条件なら何でも集合になる、わけではない

ここでの「集合」は直観的な説明である。条件が明確でありさえすれば、どのような対象についても自由に集合を作ってよい、ということにはならない。実際「自分自身を要素として含まない」という条件はまったく曖昧ではないが、そこから集合を作ろうとすると矛盾が生じる。この問題はラッセルのパラドックスで扱い、公理的集合論へ進む動機になる。

例:集合の具体例
  • $1$ から $5$ までの自然数の集合
  • すべての偶数の集合
  • 平面上の直線 $\ell$ 上のすべての点の集合
  • 方程式 $x^2 - 5x + 6 = 0$ の解の集合

2. 帰属関係

対象 $a$ が集合 $A$ の要素であるとき、$a \in A$ と書き、「$a$ は $A$ に属する」と読む。対象 $a$ が集合 $A$ の要素でないとき、$a \notin A$ と書く。

例:帰属関係

$A = \{1, 2, 3, 4, 5\}$ とする。

  • $3 \in A$($3$ は $A$ に属する)
  • $7\notin A$($7$ は $A$ に属さない)
集合と要素・帰属関係:A={2,4,6,8} の内側に属する要素、外側に属さない要素 A 2 4 6 8 5 4 ∈ A 5 ∉ A A = {2, 4, 6, 8}(外延的記法)
図2. 集合 $A=\{2,4,6,8\}$ を楕円で囲んで表す。要素 $4$ は内側にあるので $4 \in A$、$5$ は外側にあるので $5 \notin A$。外延的記法 $\{2,4,6,8\}$ と囲みの中身が対応している。

3. 集合の記法

3.1 外延的記法(列挙法)

集合の要素をすべて列挙して波括弧 $\{\}$ で囲む方法である。

$$A = \{1, 2, 3, 4, 5\}$$

要素の順序は問わない。また、同じ要素を重複して書いても、集合としては同一である。

$$\{1, 2, 3\} = \{3, 1, 2\} = \{1, 1, 2, 3\}$$

3.2 内包的記法(条件法)

ある集合の中から、条件を満たす要素を取り出して記述する方法である。$x$ がどの範囲を動くのかを明示するのが基本形である。

$$B = \{x \in \mathbb{Z} \mid x \text{ は偶数}\}$$

文脈から $x$ の動く範囲が明らかなときは、$\{x \mid P(x)\}$ と略記することもある。

例:内包的記法
  • $\{x \in \mathbb{R} \mid x^2 < 4\} = \{x \in \mathbb{R} \mid -2 < x < 2\}$
  • $\{n \in \mathbb{N} \mid n \text{ は } 10 \text{ 以下の素数}\} = \{2, 3, 5, 7\}$
外延的記法と内包的記法は同じ集合を指す 外延的記法(列挙) { 2, 3, 5, 7 } 内包的記法(条件) { n ∈ ℕ | n は 10 以下の素数 } 2 3 5 7 同じ一つの集合
図3. 書き方が違っても指している集合は同じである。要素が少なければ列挙が読みやすく、要素が多い(あるいは無限にある)ときは条件で書くほかない。

4. 特別な集合

4.1 空集合

定義:空集合

要素を一つも持たない集合を空集合といい、$\emptyset$ または $\{\}$ と書く。

4.2 重要な数の集合

本シリーズでは $\mathbb{N} = \{1, 2, 3, \ldots\}$ とし、$0$ を自然数に含めない。$0$ を含める流儀も一般的なので、他書を読むときは確認されたい。

  • $\mathbb{N}$:自然数の集合 $\{1, 2, 3, \ldots\}$
  • $\mathbb{Z}$:整数の集合 $\{\ldots, -2, -1, 0, 1, 2, \ldots\}$
  • $\mathbb{Q}$:有理数の集合
  • $\mathbb{R}$:実数の集合
  • $\mathbb{C}$:複素数の集合
数の集合の包含関係 N ⊂ Z ⊂ Q ⊂ R ⊂ C 3 −5 1/2 √2 i ℕ ⊂ ℤ ⊂ ℚ ⊂ ℝ ⊂ ℂ
図4. 数の集合は入れ子になっている。内側の集合の要素は、外側の集合の要素でもある。右側に置いたのは、その輪ではじめて入ってくる数の例である($-5$ は整数だが自然数ではなく、$\sqrt{2}$ は実数だが有理数ではない)。なお記号 $\subset$ の意味は次章で詳しく学ぶ。

まとめ

この章のポイント

  • 集合:明確に定まった対象の集まり
  • 帰属関係:$a \in A$(属する)、$a \notin A$(属さない)
  • 外延的記法:要素を列挙する $\{1, 2, 3\}$
  • 内包的記法:条件で指定する $\{x \mid P(x)\}$
  • 空集合:要素を持たない集合 $\emptyset$

よくある質問

集合とは何か

明確に定まった対象(要素)の集まりのことです。$\{1, 2, 3\}$ のように要素を列挙する外延的記法と、$\{x \mid P(x)\}$ のように条件で指定する内包的記法があります。カントールによって19世紀後半に体系的な研究が始まり、現代数学の基礎となりました。

空集合とは何か

要素をひとつも持たない集合で $\emptyset$(または $\{\}$)と書きます。空集合はただ一つ存在し、任意の集合の部分集合です。「何もない集合」は直観に反しますが、集合演算や数学的対象の構成において基本的な役割を果たします。

$a \in A$ と $a \notin A$ の違いは何か

$a \in A$ は「$a$ は集合 $A$ の要素である」ことを意味し、$a \notin A$ はその否定です。例えば $A = \{1,2,3\}$ のとき $2 \in A$ は真、$5 \notin A$ は真です。帰属関係 $\in$ は集合論の最も基本的な関係記号です。